経営の現場では「意識を変える」という表現が頻繁に使われます。
しかし人が他人の意識を変えるのは簡単なことではありません。
そこで、意識を直接変えてもらおうとするのではなく、先に行動を変えてもらうところから始めましょう。
「ルールを変えること」
「仕事の時間配分を変えること」
「数字で可視化すること」
これらを通じて、結果として意識変革を促すことが可能となります。
今週のブログでは、社員の意識を直球勝負で変えようとするのではなく、変化球を使って変えていく方法について、お伝えします。
意識変革を試みた事例

意識を変える重要性は、さまざまな職場で語られています。
「意識が足りない!」
「皆の意識が変わらなければ会社は変わらない!」
「〇〇を強く意識して取り組んでください」 などなど。
しかし、そう語られる割に社員の意識が実際に変わり、それが行動につながったという話はあまり聞きません。
それだけ人の意識と行動を変えるのは難しいことだからです。
「床に落ちているゴミは率先して拾いましょう!」
このくらいの手軽な話であれば、これまでゴミを拾わなかった人も意識して拾うようになるかもしれません。
一方で、「業務効率を意識して残業しないようにしてください」と言われても、日々の業務に追われて改善する余裕がなければ、意識したところで何も変わりません。
このように、実際に意識改革を試みたものの、上手くいかなかった実例を2つご紹介します。
失敗例1:幹部合宿で意識改革!
ある中堅サービス業の会社では、会社の高い目標を達成するために幹部の意識改革が必要だということになり、2泊3日の合宿が実施されました。
外部業者に依頼し、3日間の綿密なプログラムが組まれました。
朝早く起きて、海岸で目標を唱和し、自分の決意を大声で叫ぶような、いわゆる「気合を入れる」タイプの合宿です。
合宿から帰ってきた幹部陣は、確かに表情が引き締まって決意が強くなったように見えました。
しかし、1週間も経つとそのオーラは消え去り、完全に元通りになりました。
失敗例2:縦割り意識の撲滅
ある中堅製造業では、各部署やグループ会社間の縦割り意識が強く、組織の境界を超えた連携をどのように増やしていくかという課題感を持っていました。
生産の効率化、新製品の開発など、部門を超えて連携することで広がる可能性がたくさんあったからです。
そこで、ある事業年度から組織横断活動のスローガンを掲げ、さまざまな場面で横連携の重要性を発信しました。
幹部を中心に、その重要性の理解も進みました。
しかし、具体的なアクションが起きることはほとんどなく、「もっと部署を超えた協力をしないと」と語るばかりで、実質的な成果は乏しいものでした。
この2つの事例からも分かるように、人の意識を直接変えようとしても、容易に変わるものではありません。
意識に多少なりとも変化を及ぼせたとしても、実際に行動につながらなければ何ら実効性がありません。
「意識」は出発点

他人の意識を変えるのはとても難しいという話をしていますが、人の行動変容において意識が非常に重要である事は論を俟ちません。
アメリカの心理学者の言葉とも、ガンジーの言葉とも言われ、元プロ野球の松井秀喜選手が高校時代に恩師から教わり座右の銘とした言葉で有名なものがあります。
「心が変われば行動が変わる。行動が変われば習慣が変わる。習慣が変われば人格が変わる。人格が変われば運命が変わる。」
最後は運命まで変わるほどの変化の最初の出発点に「心」が来ています。
「意識」という言葉は使っていませんが、ここでいう「心」は近い意味合いです。
続いて、マネジメントにおける変革には5つの壁があると言われています。
「認識の壁」→「判断の壁」→「納得の壁」→「行動の壁」→「継続の壁」
ここでも「認識の壁」から「納得の壁」までが「意識」に近い意味会いです。
問題点を認識し、それが確かに問題であると自ら判断し、腹落ち(納得)するというプロセスを経て初めて、行動に移ることができます。
他人から「意識を変えて欲しい」と強く言われたら、1つめの「認識の壁」はギリギリ突破できるかもしれません。
しかしそこから実際の行動に移るには、本人自身が心から納得する必要があります。
だからこそ、他人からの指導や呼びかけだけで意識や行動を変えるのは簡単ではないのです。
意識を変えるには先に行動を変える
意識を変えるための現実的かつ効果的な方法は、先に行動を変えてもらい、結果として後から意識を変えるという方法です。
「意識を変えなさい」と直球勝負で訴えかけるだけでは効果が薄いため、逆のプロセスで行います。
具体的には次の3つの方法が有効です。
ルールを変える
時間配分を変える
数字で可視化する
ルールを変える

意識を変えずとも、ルールを変更することで行動が変わる例をお伝えします。
事例1
ある工場では、各ラインで材料を発注する担当者がいつも多めに発注するため、結果として材料を余らせ、最終的に廃棄処分が出るという問題がありました。
「無駄なく適量を発注するよう意識してください」と何度指導しても、担当者は欠品を恐れるため、行動は変わりませんでした。
何を変えたか
そこで、発注を別の部署が一括して管理することにしました。
各ラインの担当者は別の部署に必要な材料を申請して受け取りに行きます。その際に、従前の余りがどの程度あるかを報告させることにしました。
必要以上の量を申請すると当該部署から承認が得られないので、次第に適量を申請するようになっていきました。
その結果、余剰に対する意識も変わったのです。
事例2
ある会社では、営業担当者が月末になると伝票処理等の業務を営業事務担当者に大量に依頼することが問題になっていました。
本来は月末を待たずして処理できるものが多くあるにもかかわらず、月末ぎりぎりに一気に片付けようとするので、営業事務の月末の業務量が膨大になり、残業で何とかカバーする状態でした。
過去何度も上司が「月中から早めに処理するよう意識してください」と指導し、皆口をそろえて「わかりました」というものの、行動は全然変わりませんでした。
何を変えたか
そこで、月末に営業事務への業務依頼をする場合は、事務担当者本人に直接頼むのではなく、営業事務部門の課長に依頼する流れとしました。
課長はルールに厳しい人だったため、営業担当者は小言を言われるのを恐れ、月末にまとめて依頼を避けるようになりました。
結果として、月末に事務担当者の業務が集中する状態が改善されたのです。
時間配分を変える

意識したとしても、実際の行動に出なければ何も変化はありません。
そこで、1日の仕事の時間をどう配分するかを変えることで、先に行動を変えてもらった事例をお伝えします。
事例3
ある会社では、管理職がプレイングマネージャーでもあるため、自分の担当業務に追われ、部下の指導や育成にほとんど時間をとれない状態でした。
「部下としっかり話す時間をとりましょう」という指示が上層部から出ていたものの、実態はほとんど変わりませんでした。
何を変えたか
そこで、管理職の日報で「今日部下と話した時間」を、部下の日報では「今日上司と話した時間」を必ず記録してもらうことにしました。
もちろん、個別案件などの業務打ち合わせの時間は除きます。
それまでは「忙しくてなかなか話ができていない」という漠然とした認識でしたが、具体的に時間の記録を始めたところ、自分がどれだけ部下と話ができていないかが浮き彫りになりました。
危機感を感じた管理職は、敢えて部下と話をする時間を捻出し、具体的な行動として時間を確保するようになりました。
その結果、管理職は「部下としっかり話すようにしたら、相互理解が進み、お互いに仕事がやりやすくなった」と効果も実感するようになりました。
先に行動が変わったことで、部下としっかり話すことの大事さを自ら意識するようになったのです。
事例4
別の会社では、営業担当者が既存顧客を回るばかりで、なかなか新規顧客開拓活動をしないという問題がありました。
「もっと新規開拓をしっかりやるように」との指示は出ていたものの、心理的に難易度の高い新規開拓よりも、既に関係性のできている既存顧客営業を優先しています。
頭では分かっているものの、行動できない状態です。
何を変えたか
そこで、新規開拓の電話をするための専用の時間を確保することにしました。
水曜日の午後の2時間を新規電話タイムと定め、担当者全員が在席して電話をかけまくることとしました。
毎週その時間が固定されているので、他の業務に代替することはできません。
加えて、同僚も皆同時に新規電話をしているので、心理的抵抗感も少なく取り組むようになりました。
「新規開拓を意識する」だけでは変わらなかった行動が、時間の使い方を変えることで実際に動き始めたのです。
数字で可視化する

行動を数字で示すことにより、自ら気づき、行動を変えていく事例をお伝えします。
事例5
あるコンサルティング会社では、プロジェクト別の採算が見えづらい状態でした。
売上の少ないプロジェクトは、そこに投入する稼働時間を抑える必要があります。
しかし実際は、担当コンサルタントの思い入れや得意不得意でプロジェクトに費やす時間が左右されていました。
中には、もともと赤字のプロジェクトにさらに多くの人件費がかかっているケースなどがありました。
会社からは「売上規模に応じて業務時間を配分するように」と度々指示は出ていましたが、結果はほとんど変わりませんでした。
何を変えたか
そこで管理会計の仕組みをつくり、全ての業務時間に「どの仕事に使ったのか」を記録して割り振り、各プロジェクトに人件費を紐づけることを開始しました。
結果、プロジェクト別の採算が明確になり、さらにデータを公開するようにしました。
数字として全員に見えるようになったことで、それぞれがプロジェクト収益を考慮した行動をとるようになったのです。
事例6
また、ある宿泊業ではサービス満足度を上げるべく、おもてなし精神の教育を行ったり、「お客様に、ここでしか味わえない最高の感動を!」とスローガンも決めて呼びかけてきました。
しかし、仕事が忙しすぎる問題も抱えているため、あまり改善が見られませんでした。
何を変えたか
そこで、お客様アンケート結果の公表をスタートさせ、毎月の満足度が点数で出るようになりました。
総合点だけでなく、食事、衛星、お風呂・・・など項目別の回答明細もあるので、自分の担当業務に対する評価もわかります。
さらにお客様に、特別にホスピタリティの高かった従業員宛てにサンクスカードを書いてもらう試みもスタートし、その獲得枚数を全社に公表するようにしました。
結果として、各担当者はお客様の満足度を強く意識するようになり、毎月の評価をしっかり見て改善に取り組むようになりました。
自分自身へのサンクスカード枚数も励み、またはプレッシャーとなり、1人1人の接客行動に変化があらわれ、それに伴って意識も変わっていきました。
以上、6つの事例を紹介しました。
人の意識を変えるためには、意識を変えなさい!と直球勝負で強いるよりも、「ルールを変える」「時間配分を変える」「数字で可視化する」という変化球を投げ込み、先に行動から変えてもらう方が効果的であることが理解いただけたと思います。
まとめ
人の意識を変えたいとき、「意識を変えてください」と直接働きかけるだけでは、なかなか実際の行動につながりません。
6つの事例で見ていただいたように
ルールを変える
時間配分を変える
数字で可視化する
といった具体的な方法で、まず行動が変わる環境や仕組みをつくる方が変化につながりやすくなります。
行動が変わることで結果が生まれ、その結果を本人が実感することで、後から意識も変わっていきます。
社員の意識を変えたいと感じたときは、意識そのものに働きかける前に、
「どの行動を変えればよいか」
「その行動を通じて意識が自ずと変わる仕組みをつくれないか」
と考えてみてはいかがでしょうか。
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