「二兎を追って二兎を得る」を 企業文化 へ|組織競争力を高めるマネジメントのヒント

2024.06.27

企業文化

「二兎追う者は一兎も得ず」ということわざがあります。

ところがビジネスの現場では、相反する2つの要求を同時に達成することが求められる場面がしばしばあります。
 

例えば、

「コストを下げると同時に、品質を上げてください」

「品質を高めると同時に、生産のリードタイムを半減してください」

このように、一見相反する2つのことを同時に追求する指示が下されます。
 

聞いた瞬間「えっ?それは無理・・・」と思うかもしれませんが、どちらか一方を捨てて他方をとるだけでよいならば、それはさほど難しい仕事ではありません。

二兎を追い二兎を実現するところにこそ、ビジネスで勝ち抜く真の競争力が生まれてくるのではないでしょうか。
 

今週のブログは、二兎をあきらめず二兎を追う企業文化についてお伝えします。

 

二兎を追う事例

 

セキュリティ機器の販売・取付けなどを行っている企業から人事制度の相談がありました。

その相談内容は「人件費の総額を引き下げ、社員の給料を上げたい」というものでした。
 

最初聞いた時は、正直「えっ?どういうこと?」「そんなことが可能なの?」と思ったのが本音でした。

ただ、先方社長は、「当社はここまで人件費をかけなくても今のビジネスを回せるし、それができれば社員1人当りの給料だって上げられる」という確信があるようでした。

 

そこで先方の担当者と一緒に人件費の発生状況、各職場の生産性、業務の流れなどを検証し、その結果、下記のような発見がありました。
 

  • 不要な手作業
    営業事務、支店庶務など複数部署で事務スタッフとして派遣社員を雇用していましたが、その仕事の多くが手作業に依存しており、過去からの慣習で行っているだけで今や必要のない業務がありました。
     
  • 繁閑差の大きい部門
    取付工事の部署は時期による繁閑の差が激しく、社員が忙しくしている時期と暇な時期が極端でした。
     
  • 重要度が下がった紹介営業
    新規顧客開拓のためにさまざまな業界出身者を顧問に据えて顧客紹介をお願いしていましたが、最近は会社のマーケティング能力が上がり、受注はほぼネット経由となっていました。
     
  • 無駄な手待ち時間
    製品取付後のアフターサービス部門は残業代がたくさん発生していましたが、時間帯によっては問合せが少なく手待ち時間が多いことがわかりました。

 

これらの問題点を踏まえて、総人件費を下げるための下記の施策を行いました。
 

事務関連業務は必要な仕事とそうでない仕事を見直し、必要な仕事の作業自動化と効率化を進め、派遣社員数を徐々に減らしていきました。

工事部隊は正社員として抱える人材を減らす方向とし、外注活用度合いを高めつつ、定年退職者の欠員補充を行なわないこととしました。

営業の顧問は契約満了とともに段階的に契約終了しました。

アフターサービス部門では勤務シフト時間を工夫することで残業代の発生を抑えました。

 

これらの施策を進めることで人件費の低減可能額が見えてきたので、その削減額を社員の基本給に上乗せする算段がたち、給与制度を見直しました。

こうして最初は無理難題に聞こえた二兎を追うお題「総人件費を減らしつつ社員の給料を上げる」が実現にいたりました。

 

また、トヨタ自動車のカイゼン活動も二兎を得ている例として有名です。

毎年カイゼン活動を通じて生産コストを引き下げながら、品質を継続的に高めています。

つまりビジネスの現場では、「二兎追う者は一兎も得ず」ではなく、二兎を追いかければ二兎を得られる可能性が十分にあると言えます。

 

二兎を追う企業文化

あなたの会社の社員に相反する2つの要望(「AとBを同時に実現して欲しい」)を与えた場合、彼らはどのように反応するでしょうか?
 

「いやいや、社長、Aを達成しようとしたらBは下がらざるを得ません」と常識的な答えをしてくるでしょうか?

それとも

「AとBの両立は容易ではありませんが、何とか実現できる方法をひねり出します」と答えるでしょうか?
 

前者の返答ならば、二兎を追うことが当たり前の企業文化にはなっていません。

ともすると「二兎を追いなさい」という指示自体が無理難題と捉えられている風土かもしれません。

 
一方、後者のように社員が答えるならば、その会社には二兎を追うチャレンジが企業文化として根付いていると言えます。

 

二兎を追いかけるメリット

 
二兎を追うことには大きなメリットがあります。
 

  • 社員が必死で解決方法を考える
     
  • 必死で考えるから、常識では思いつかないアイディアが出てくる
     
  • 必死で考えるから、社員の能力が高まる
     
  • 実現できたら社員は大きな成功体験を得られ、自信がつき、仕事が楽しくなる
     
  • ライバル企業に一歩差をつけられる
     
  • 業績が向上する

 

普通に考えていたら思いつかないアイディアを社員から引き出すことは、会社の成長を大きく左右する重要な要素です。

「必要は発明の母」というように、追い詰められ「ああもう駄目かも・・・」という状況に追い込まれた時にこそ、人間の創造力や発想力は研ぎ澄まされ、アイディアが生まれます。
 

「AかBかどちらか一方」ではなく「AもBも」と欲張る企業文化があれば、その会社は大いに競争力をつけていけるでしょう。

 

マネジメントは二兎を追う仕事のオンパレード

 

ここまでお読みいただいた皆さんは既にお気づきかもしれませんが、マネジメントの仕事は二兎を追うものばかりです。

そして、組織を率いる立場の方は常にこの課題に向き合うこととなります。
 

以下、マネジメントが向き合う二兎を追うケースについて、いくつかの事例を紹介します 

企業文化

 

ここまでの事例から、いかに二兎を追う仕事に囲まれているかお分かり頂けたのではないでしょうか。

マネジメントに携わる人は、これら相反する目標を達成するべく、常に創意工夫を凝らし、組織をリードしていかなければなりません。
 

「二兎を追うことが当たり前」という、何事にも果敢にチャレンジする企業文化づくりをぜひ進めてほしいと思います。

このような文化が根付くことで、企業はさらに強く、競争力のある組織へと成長していくことでしょう。

 

 

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筆者紹介

株式会社SUSUME 代表取締役

竹居淳一

「人と組織が強みと言える会社づくり」を支援しています。人事の領域は年々複雑化、高度化していますが、中小企業で実践可能な視点から人材育成や組織づくりのコツを発信しています。 採用、育成、定着化、評価、組織開発、労務などの一連の領域を分断することなく、全体最適の解決策と実行が強みです。

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