やって見せ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は動かず
話し合い、耳を傾け、承認し、任せてやらねば、人は育たず
やっている、姿を感謝で見守って、信頼せねば、人は実らず
私は色々な企業でマネージャー向けの研修を行なったり、マネージャーが意識すべきことを教材にまとめたりしますが、何をやっても山本五十六のこの金言にはかないません。
上司たる者のあるべき姿勢を、ここまで端的にわかりやすく伝え切っている言葉は他にないのではないでしょうか。
上司の部下マネジメントにおいて意識してもらう事は、これだけに絞ってもよいくらいです。
今週のブログでは、山本五十六の金言の凄さと、上司への教育や指導にどのように活用できるかについてお伝えします。
目次
なぜ山本五十六はこの言葉を残せたのか
山本五十六がここまで普遍的で心に刺さる言葉を残せたのはなぜでしょうか?
その背景となる彼の人生を少し振り返ってみます。
山本五十六の生涯
山本五十六は1884年に長岡藩(現在の新潟県長岡市)で誕生。
中学卒業後、海軍兵学校に進学。その志望動機は「薩摩の海軍をやっつけるため」でした。
海軍兵学校卒業後、21歳の時に日本海海戦で砲弾により重傷。生死をさまよいながら3か月あまりの入院生活を送りました。
意識を取り戻した時は、さらに国のために尽くす決意を固め、その時の心境をこう綴っています。
「天は我に新しい命を授け、軍人としてもう一度、国のために尽くすよう命じられた」
29歳で海軍大学校に入学。海軍大学校卒業後、32歳の時に大病を患い、大手術で一命をとりとめました。
結婚を経て、35歳の時にハーバード大学へ留学。
アメリカの歴史、文化、経済などを徹底的に学び各地を視察しました。
英語を磨き、視野を広げ、アメリカの自由主義、人間の平等についても自ら学びました。
その後海軍で様々な要職を担い、二度目のアメリカ駐在も経て、1934年ロンドン軍縮会議に海軍代表として出席しました。
52歳で海軍次官に、1939年55歳で連合艦隊司令長官に就任。
太平洋戦争では真珠湾攻撃を皮切りに指揮をとり、1943年59歳の時に、ラバウルから搭乗した視察機を米軍に撃墜され死去しました。
山本五十六の経歴で特徴的なのは、アメリカに二度駐在するなど国際派であり、人の多様性や自由や平等の素晴らしさを知っていたことです。
二度生きるか死ぬかの経験をしており、自分が生かされていること、国のために尽くす決意と覚悟をもっていました。
戦争回避に尽力しつつ、最後は自ら責任をとって大作戦を指揮し、部下の働く最前線で命を落とした生涯でした。
やってみせ、言って聞かせて、させてみて、ほめてやらねば、人は動かじ
「やってみせ、言って聞かせて、させてみて、ほめてやらねば、人は動かじ」は、困窮にあえぐ米沢藩を立て直した上杉鷹山の「してみせて 言って聞かせて させてみる」をアレンジしたものと言われています。
庶民の懐に入り込んで人材を発掘し産業を興した上杉鷹山の言葉を使うところに、山本五十六の人生観、人物観がうかがえます。
この言葉は上司の部下マネジメントにおいて大いに役立ちます。各々の言葉を見ていきましょう。
やってみせ
「まずは見本を見せる」ということです。
口で教えるだけでは部下は分からないので、最初に自分が見本を見せる。
このときに良い見本を見せられるよう、自分自身が普段から模範となる仕事をしていなければなりません。
言って聞かせて
見せた仕事ぶりについて、何を意識しているか、何に注意しているか、コツは何か、などを言葉でしっかり伝えます。それによって部下の理解が深まります。
させてみて
学んだことは必ず部下に実行してもらいましょう。
頭で理解するだけでは実践できません。
部下が実際にやってみることで、その難しさを体感しつつ、徐々に体得していきます。
ほめてやらねば
させてみて終わりではなく、させてみた結果をちゃんと振り返るフィードバックが必要であること、そしてそのフィードバックにおいての褒める重要性を伝えています。
部下が実際にやっても最初はなかなか上手くいきませんが、何度もやるうちに徐々に上達していきます。
前より進歩があれば、小まめにほめてあげましょう。習得しようと努力していたら、その努力姿勢もほめてあげましょう。
ほめられて嬉しくない人はいません。さらに頑張る原動力になります。
「ほめる」はマズローの欲求5段階の4段階目「承認欲求」を満たすものでもあります。
人は動かじ
上記の対応をしてあげない限り、部下は仕事の覚えが遅く、自発的に動くようにはならないということを表しています。
話し合い、耳を傾け、承認し、任せてやらねば、人は育たず
続いて2つ目の言葉、「話し合い、耳を傾け、承認し、任せてやらねば、人は育たず」についてです。
話し合い
部下とちゃんと顔をつきあわせて対話する重要性を説いています。
今どきの1on1に近いかもしれませんが、上司から一方的に指示命令を与えて部下を動かそうとするのではなく、同じ目線で話し合う姿勢が必要です。
”話し合い”なので、上司が一方的に喋り部下はただ聞くだけでは、話し合いとは言いません。
話し合いを通じて、部下が今どんな状態で何を考えているか、ちゃんと理解しておく必要があります。
耳を傾け
今どきの「傾聴」ですね。
部下の話をちゃんと聞かずに自分の考えをおしつける上司がいますが、それでは部下は納得して仕事に取り組めません。
部下の意見が正しくないとしても、いったん耳を傾けて部下の伝えたいことをしっかり受け止める姿勢が必要です。
それが心理的安全性の創出にもつながります。
承認し
まずは部下を認めてあげるということです。
仕事のやり方が上手くない部下、生意気な部下、言うこと聞かない部下、色々と扱いづらい部下がいるとは思いますが、それでもまずは1人の人として認めることが上司部下関係の第一歩です。
部下の意見に耳を傾ければ、必ず「なるほど!」という内容が含まれます。
それをスルーしたり否定することなく、「good idea !」と認めてあげましょう。
任せてやらねば
まだ頼りない部下であっても、何も任せず上司の指示通りやらせるだけでは成長がありません。
多少無理だと思っても、少し背伸びした仕事をさせる勇気が上司には求められます。
答えのない問いに対して自分の頭で考えてこそ、人は大きく成長するからです。
どのレベルの仕事を任せるかを的確に見きわめるのは、普段の部下との「話し合い」の深さ次第です。
人は育たず
上記の対応をしない限り、上司と部下は本当のいい関係にはなれません。
上司と日々の対話を通じて信頼関係を築き、上司に認められてこそ、部下は安心して高い壁にチャレンジし、さらに大きく育っていくのです。
やっている、姿を感謝で見守って、信頼せねば、人は実らず
最後に3つ目の言葉、「やっている、姿を感謝で見守って、信頼せねば、人は実らず」についてです。
やっている、姿を感謝で見守って
部下は上司の所有物ではありません。
「部下」という名称が誤解させがちですが、部下は上司より「下」というわけではありません。
上司と部下は「上司・部下という仕事」を両者で役割分担し、効率的に仕事を進めていくためのパートナーです。
よって家庭において夫がパートナーである妻に感謝するように、上司は部下に感謝しなければなりません。
部下は上司のために働いているのではなく、自分のために、そしてお客様や会社や仲間のために働いているからです。
その部下が頑張っている姿を「感謝で見守って」という表現に、山本五十六ならではの暖かさを感じます。
信頼せねば
山本五十六の言葉からは、人は信頼して目をかけてあげれば育つという信念がベースにあるのがわかります。
「まかせてもどうせ無理だろう」と思って部下に仕事をふる
「何とかやってくれるだろう」と期待をかけて仕事をふる
この真逆の意識次第で、受け取る部下の気持ちは大きく異なります。
上司から信頼されて、期待されてこそ、部下は大きく伸びます。
人は実らず
「人が実る」という表現が素晴らしいですね。単に「仕事を覚える」とか、「成果を出す」という水準を超えた言葉です。
秋に稲穂が実るように、人として成熟し、人間性溢れる人物になっていくまでが想定されています。
上記の対応をしてあげない限り、上司と部下は本当のいい関係にはなれません。
上司による感謝と信頼こそ、部下が実るための偉大なる栄養素となります。
山本五十六の言葉が人材マネジメントに有用な理由
以上、山本五十六の3つの言葉を解釈してきました。
たった3行の言葉ですが、ここには人材マネジメントの要素がほとんど入っています。
マネジメント研修等で扱われる以下の理論や考え方がいずれも含まれていることに驚かざるを得ません。小難しい理屈を教えるより、山本五十六の言葉を教えた方がいいと思う理由はここにあります。
- サーバントリーダーシップ
- ピグマリオン効果
- 心理的安全性
- コーチング
- 1on1
- フィードバック
- マズローの欲求5段階
- リーダーシップの段階(SL理論)
- 内発的動機づけ
- 組織の成功循環モデル(ダニエル・キム)
- Y理論
最後に記載したY理論は、こちらの図にあるようにX理論と対極にある人間観です。
山本五十六は徹頭徹尾Y理論を信じ、それにもとづいた人材育成、マネジメントを行っていたのではないでしょうか。
まとめ
山本五十六の名言は、部下を持つ上司にとって宝物のような言葉です。
平易にわかりやすく書かれていますが、マネジメントの多くの要素を含んだ含蓄の深い言葉であり、これを実践するだけでもあなたの組織は見違えるようによくなるはずです。
この言葉を実践する上での注意点としては「部下信じて任せればよい」と単に放任するマネジメントを行ってしまわないことです。
「信じて任せる」と同時に、小まめに対話し、仕事の状況の把握が必要です。
コミュニケーションを通して部下をよく知っているからこそ、今が見本を示してやらせるタイミングなのか、主体的に考えて取り組ませるタイミングなのかが分かります。
任せるにしても、どのレベルのどの程度の塊を任せるのが本人にとってちょうどよいか、上司として分かっていなければなりません。
中小企業では、初めて部下を持つ上司にマネジメント研修を実施する余裕がなかなかありません。
立派な研修などできなくても、山本五十六の名言を借りて、その言葉の意味を理解し、1つ1つ実践していくだけでも大いに意義があるでしょう。
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