「仕事の学び」は キャリア戦略 の土台|変化する時代を生き抜くための自己学習

2024.03.21

キャリア戦略 において、自己学習は不可欠です。

特に若手社員が成長するためには適切な指導と挑戦の機会が必要ですが、若手社員の育成環境は会社によって大きく異なります。

働き方改革以降、年々残業の制限が厳しくなる中、若手にハードな仕事をさせない“ゆるブラック企業”が増えました。

“ゆるブラック企業”とは、社員を腫れ物にさわるように大事にし過ぎて、残業も全くさせず、いつまで経っても簡単な仕事しか与えないような会社です。

しかし若手社員をそのように扱っている限り、会社の将来は真っ暗と言わざるを得ません。
 

一番伸び盛りの若手社員をそのような環境に置いてしまって果たしていいのでしょうか?
 

今週のブログは、「学ばない人は生き残れない」というテーマです。

 

学ばなくても生き残れる時代は終わった

 

パーソル総合研究所が2023年秋に行った学び合う組織に関する定量調査【対象者6,000人(20~64歳)に興味深いデータがありました。

「業務外で学習をしている人は56.1%しかいない」というものです。
 

「学習している」と答えている人の中にも月に1時間程度以下の人が約10%含まれますので、これを考慮すると66%(3人に2人)はほぼ業務時間外の学習をしていないということになります。

時代の変化の速さを考えるとこの数字は衝撃的で、なかなか恐ろしい未来を暗示しているように思います。
 

仕事以外の学習などしなくても、それなりの給料が保証され、定年まで安泰して働ける。そんなことが今の時代に可能でしょうか?

可能であるためには、社会に以下のような条件が揃っている必要があります。
 

  

  • 難易度の低い定型的業務が日本国内にたくさんある
     
  • スキルが低くても可能な職種の求人がたくさんある
     
  • 仕事の専門性をあまり求められない
     
  • (技術革新等による)仕事のやり方の変化が少ない
     
  • 会社の経営が長期にわたって安定しており、自分の会社が倒産することなどない
     
  • 生涯1社で働く人の割合が高い(転職という競争市場にさらされない)
     
  • 雇用が法律で強く守られている

 ・・・

上記のような条件が揃っていれば、学ばない人でも何とかやっていけるかもしれません。

しかし今の世の中は逆の流れが主流です。
 

 

  • 定型的業務は機械化、自動化がどんどん進み、オフィスにおける単純労働は減っていく
     
  • 高いスキルを求める求人は幾らでもあるが、定型業務主体の求人は(一部の業種を除き)限られている
     
  • どの職種も専門性を求められる。大企業においても以前ほど頻繁な人事ローテーションはなくなり、専門性を重視している
     
  • 技術革新等で新しい職業、新しい仕事の進め方がどんどん生まれている
     
  • 多くの人は人生の中で何度か転職しながらキャリアを積み重ねていく

 
このような時代において、学ばずして安定的なキャリアを築くことは非常に難しいと言えます。

 

仕事の学びにおいて、資格取得や通学よりも大事なもの

仕事の学びは誤解されがちです。

仕事の学びというと、資格の勉強や学校に通う、研修・セミナーへの参加などを思い浮かべる人が多いですが、実はもっと身近なところにその機会は存在します。

その身近な学びの機会について、学ぶ人と学ばない人の例(場面)を通じてお伝えします。

 

◆先輩社員の作成した資料がとても分かりやすかった時
 

学ぶ人

先輩に「〇〇先輩は資料を作成する際にどのような点に気を付けていますか?」「どのように勉強しましたか?」と尋ね、教わった注意点を真似しつつ、先輩が読んだという資料作成の本を週末に読む。
 

学ばない人

「〇〇先輩さすが!」と思うだけで終了。

 

◆初めてお客様にプレゼンしたが、緊張して上手く説明できなかった時
 

学ぶ人

プレゼンが上手くいかなかったのがとても悔しく、人前で上がらないためにどうすればよいか?相手に伝わる話し方とはどのような話し方か?これらを勉強しようと思い、動画を見たり参考書を買って読む。
 

学ばない人

やっているうちに徐々に慣れるだろうと考え、特に学ばない。

 

◆エクセルでデータ処理、分析、グラフ作成など担当しているが、業務量が多すぎていつも仕事に追われている人
 

学ぶ人

エクセル業務の効率を徹底的に上げるため、ショートカットキーを特集していた雑誌や、データ分析に関する動画教材を購入して学習。社内でエクセル分析に強い先輩にも教わりにいく。
 

学ばない人

「俺ばっかり仕事が多くてほんと大変・・」とぼやいて終わる。

 

◆会議で上司や先輩が戦略の難しい用語を話していて、ついていけなかった時
 

学ぶ人

分からなかった言葉をメモして、後ですぐ調べる。その用語に関連する周辺知識も学ぶ。
 

学ばない人

そのままスルーする。

 

いくつか例を見てもらいましたが、学びのきっかけは日々の仕事の中にいくらでも転がっていることが分かると思います。
 

日々、自分の中で「ここが弱い」「これが足りない」「ここをもっと伸ばしたい」と感じたことを拾い上げて学習すれば、仕事にダイレクトに活きる学びがたくさん得られます。

 

業務時間外こそ学びの時間

 

上記の例で示した学びは、仕事の時間内でもある程度はできますが、勤務中は業務に忙殺され、腰を落ち着けて勉強する時間はとれません。

よって、勤務時間外の時間をしっかり使わなければ深い学びは不可能です。
 

だらだら残業する必要はないので、仕事を終えて帰宅途中にカフェで学ぶ。または家に帰ってから学ぶ。何かを教わりたい人を誘って食事に行く。

週末は土曜日に思い切り遊び、日曜日の午後の数時間は勉強に充てる。

このように、業務時間外を上手く活用する必要があります。
 

「仕事のための勉強なのに、会社からその時間分の給料はもらえないのですか?」

と感じる人もまだ世の中にはいるでしょう。
 

そういう人には「考え方が根本的に時代と合っていません。そのままだと将来苦労しますよ」と真実を伝えてあげるのが親心です。
 

これからの時代、スキルが上がらなくてもやっていける定型業務は減少します。

もし転職するとなったら、市場価値が問われます。

「あなたは何ができますか?」「あなたは我が社にどのような貢献をしてくれますか?」と。

 
転職市場で戦うライバルには、自ら学んでいる人たちがたくさんいます。

世界に目を転ずれば、転職が当たり前の国々ばかり。

そういう国の人たちは自分の能力を高めようと自ら投資して一生懸命勉強しています。

 

3+1種類の学びの組み合わせ

キャリア戦略

 

「学ばない人は生き残れない」 「業務時間外をいかに学びの時間に充てられるか」

という話をしてきましたが、実際に自ら学ぼうと思う人は、どのように自身の学びを設計したらいいでしょうか?
 

仕事の学びには大きく3+1種類あります。

この3+1を上手く組み合わせてキャリアを形成していくとよいでしょう。
 

1. 日々の仕事の気づきから発生する学び

2. 体系的な学び

3. ジャンプするための学び

+1. 特に自分で決めず、たまたま目にしたもの、聞いたこと、興味の湧いたこと、何でもよいので学んでみる

 

1. 日々の仕事の気づきから発生する学び

先ほど事例に出したような学びを指します。

仕事から派生する学びなので、とても実践的で仕事に役立ちます。地力をつける根幹を支えるのがこの学びです。

若手社員に限らず、ベテランになっても、経営者になっても欠かせない学びです。
 

部長クラスであれば

  • 取引先の会社の雰囲気がとてもいいと思った際、その会社の企業文化がどのようにできてかを教わったり、それをきっかけに人事施策を色々勉強して自分の組織に活かす
     
  • 世の中でDXという言葉がよく聞かれるので、自分なりに勉強し、自社でどのようなことができるかを考えて実践する
     

このような学びが求められます。

 

体系的な学び

 

「1. 日々の仕事の気づきから発生する学び」の弱点を補う学びです。

1は自分の目の前の仕事、担当業務を出発点として行う学びであるため、ビジネススキルの網羅性に欠けるところが弱点です。
 

例えば

  • 電話営業の人は電話商談のスキルを高めていきますが、普段仕事の文書を書く機会が少ないので、書く力、書面で表現する力が育ちづらいです。
     
  • 在宅仕事中心のプログラマーはITスキルを日々磨いたとしても、人とコミュニケーションする時間が少ないので、伝える力、聞く力などが育ちづらいです。
     
  • 作業メインの人は考えて工夫する時間があまりないので、問題発見力、解決力、企画力などの力が育ちづらいです。
     

そこで、ビジネスパーソンに求められるスキルの全体像を理解し、自分に足りないところをどのように埋めていくか考え、ある程度計画的に学習していく必要があります。
 

スキルの全体像はこちらのブログも参考にしてください。

 

3. ジャンプするための学び

 

従来の延長線上ではなく、新たな領域に自分を持ち上げるための学びです。

比較的近い領域へのジャンプと、異なる領域へのジャンプがあります。
 

隣接領域へのジャンプ

 

  • マーケティングの経験者がデータサイエンスを学ぶ。マーケティングは普段からデータを見る仕事ではありますが、その知見を圧倒的に高めたいという動機によるものです。
     
  • 経営企画部で中計など担当してる人が、M&Aの業務もできるよう、該当プロジェクトに混ぜてもらって実務を学ぶ。
     
  • 営業部で若手人材の教育などを担当していた人が、希望して人事部へ異動し、人事全般の仕事を学ぶ。人材教育について多方面から学び知見を深める。

 

異なる領域へのジャンプ

 

  • 長年サービス業をやってきた人が子育てとの両立も見据えて、ITエンジニアになるべく勉強する。
     
  • 営業事務担当者が、同じ社内の営業職に転じる。優秀な営業の先輩から営業のコツを学び、将来的にはインセンティブがもらえるよう頑張る。
     
  • 長年の生産管理の経験・知識を体系化し、人に教えるコミュニケーションを学び、55歳で独立して生産管理のコンサルタントになる。

 

ジャンプするための学びは頻繁に訪れるものではありませんが、人生の中で何度かとことん勉強してキャッチアップしたり、新たな道を切り開くべき瞬間もあることでしょう。

 

+1の学び

 

領域に捉われない自由な学びもその人の幅を広げてくれます。

何でもよいのできっかけがあれば学び、そこで興味が湧いたらもっと深く学んでいきます。

歴史でも哲学でも絵でも音楽でも雑学でも何でも構いません。表面的な知識だけでなく、少し踏み込んで本格的に学べると効果大です。

 

以上が学びの3+1です。

時々自分自身を振り返り、3+1の学びをどのように組み合わせていくのがよいかを考えてみてください。

 

ミドル世代こそ学ぶ必要

冒頭で引用した、パーソル総合研究所「学び合う組織に関する定量調査」では年齢と学習の相関についてのデータもありました。

男性は40代になると学習意欲が大きく下がり、50代以降もそのままです。

女性は50代以降に大きく下がるという結果です。
 

40代、50代になると、若い頃に比べて好奇心が薄れ、仕事的には過去の経験則で対処できてしまう構図ですが、その慢心を打破しなければならないのがこの年齢です。

なぜなら、この世代は会社の中核ポジションにいる方も多く、会社の将来を左右する存在です。

だからこそ、若い人以上に新しいことを学び、自己研鑽に励んでいかねばなりません。
 

「上司が学んでいると部下も学ぶ」「学ばない上司の部下は学ばない」という相関もあるので、上の世代の学び姿勢は、責任重大であります。

 

皆が学ぶ企業文化へ

 

社員がよく学ぶ会社もあれば、そうでない会社もあります。

よく学ぶ会社は、学ぶ企業文化があると言えます。

学ぶ企業文化とは、以下のような価値観が社員の間に行き渡っているような状態をイメージしてください。
 

  • 学んで自己研鑽することは格好いい(学ばない人はダサい)
     
  • お互い学び合い、教え合う
     
  • 若手にばかり要望するのではなく、上の世代も積極的に学んでいる
     
  • 優秀な人ほど後輩や部下によく教え、そういう人が評価される(優秀だけど自分のノウハウを教えない人は真の意味で優秀とは評価されない)
     
  • 学びは仕事に役立つだけでなく、その人の人生にとってもいい影響がある
     
  • 豊富な経験と実績がある上に、さらに謙虚に学び、過去の遺産に頼らない人が社内で最もリスペクトされる

 

世の中の2/3の人が学んでいないからこそ、学ぶ文化を作り上げた会社はライバルに大きく差をつけることができるでしょう。

仕事に学びを取り込み、継続的に学べる人は、自分のやりたい仕事ができ、引退するその日まで求められる人材になることができるでしょう。

 

 

ぜひこちらのブログも参考にしてください。

筆者紹介

株式会社SUSUME 代表取締役

竹居淳一

「人と組織が強みと言える会社づくり」を支援しています。人事の領域は年々複雑化、高度化していますが、中小企業で実践可能な視点から人材育成や組織づくりのコツを発信しています。 採用、育成、定着化、評価、組織開発、労務などの一連の領域を分断することなく、全体最適の解決策と実行が強みです。

筆者プロフィール詳細