部下の教育
上司の仕事の中で重要な役割の1つは部下に「教える」ことです。
「教える」という行為は、とても奥が深く難しいものですが、初めて部下を持つ人の多くは「教える」ノウハウを知らぬまま、見よう見真似で教え始めます。
学校の先生は「教える」ことが本職なので、どうやったら生徒が理解できるか、知識が身に着くか、その手法について普段から学び、研究し、試行錯誤しています。
同じようにビジネスパーソンも、自分が教える立場になった以上(学校の先生ほどではないにしても)、その方法を学ぶ必要があります。
今週のブログでは、ビジネスにおける「教え方」の基本についてお伝えします。
目次
ビジネスにおける「 部下の教育 」の目的
部下の教育の際、まず抑えるべきは「何のために教えるか」という目的です。
「そんなこと言うまでもないでしょう」と思われるかもしれませんが、「知識をつける」ことが目的化してしまい、知識はつけたけれど実践は何も変わらない、なんてことが起きていませんか?
ビジネスにおける「教える」目的は、単に知識を増やすことではありません。
教えた相手が仕事でより高い成果を出せるようになること、仕事の質が改善すること、相手の思考/行動を変換することがゴールです。
どんなに知識をつけ、スキルを磨いても、それが仕事の実践において発揮されなければ教育の意味はありません。
インプットとアウトプット
卵を溶いて、小麦粉をかきまぜ、砂糖を入れて丁寧に焼いたら、美味しいホットケーキができあがります。
これは、卵、小麦粉、砂糖、人手というインプットを掛け合わせた結果、ホットケーキというアウトプットにつながる例です。
ビジネス教育も基本の考え方は同じです。
A君の今の仕事のスキルに、上司による教育というインプットを掛け合わせたとき、出来上がるべきは「A君のより高い仕事の質というアウトプット」です。
教える際は、最終的にいつまでのどのようなアウトプットを期待するのかを想定しながら、教育方法を考える必要があります。
部下の教育 の際に陥りがちな罠と対策
部下の教育に慣れない上司が陥りやすい罠とそれに対する改善方法についてお伝えします。
教育の際の3つの課題
1. 一方的に教える
2. 大量に詰め込む
3. ストーリーがない
詳しく見ていきましょう。
課題1:一方的に教える
部下に指導する際、上司が一方的に話し続けている場面をよく目にします。部下はさも理解したかのように「うんうん」頷きながら、ノートにメモをとっています。
たまに上司が「分かった?」と聞き、部下は「はい」と答えます。
しかし、このとき部下は本当に分かっているでしょうか?
大学の退屈な講義を思い浮かべてみてください。教授がひたすら喋り続ける授業がありませんでしたか?
いい話をしているかもしれませんが、途中から頭に入らなくなります。眠くなります。いつの間にか上の空です。
一方的に話す教育は、この大学の退屈な授業と同じ状況を生み出しています。
教育の効果を高めるためには、最低でも5~10分に1回くらいは、ペースを変えて、双方向のコミュニケーションを取り入れましょう。
「今のところ理解できた?」
「〇〇について、自分の理解したことを説明してみてもらえる?」
「□□について、自分の仕事に当てはめるとどのように改善できると思う?」
「頭がパンクしていない?」
このようにさまざまな角度から問いかけて、キャッチボールしながら進めてみましょう。
必要に応じて、再度詳しく説明したり、相手の理解度に応じて教える内容を調整したり、事例を交えたり、変化をつけることで教育効果が向上します。
課題2:大量に詰め込む
1回に大量の情報を詰め込む教育も効果が薄いです。
1つの事を覚えて実践するだけでも簡単ではないのに、10も20も知識やスキルを与えられたら、誰もついていけません。
教える側は「1回の指導でたくさん教えられて効率的!」と感じているかもしれません。
たくさん教えて「仕事した!」という満足感を得ているかもしれません。
ところが、教えられる側にとってはほとんど消化不良の時間となってしまいます。
先ほどの「教える」目的に立ち返ってみてください。
教える目的は、上司の業務効率を上げることでも上司が満足することでもありません。
部下の仕事の質が変わることが目的です。
教えたいことは100あるかもしれませんが、まずは特に重要な3つ、次に重要な3つ、というように優先度と強弱を明確にして徐々に教えていくのが望ましいです。
課題3:ストーリーがない
大学の授業にはシラバスというものがあります。
シラバスには、その授業の目的や、何が身に着くか、年間を通じて何回の授業があるか、各回でどのようなことを学ぶかなどが書かれています。
(私が学生の頃はありませんでしたが、今の時代は当たり前の仕組みですね。)
これは言い方を変えると「教育のストーリー」です。
各回の授業がどのようにつながり、最終的に何が得られるかを明示することにより、学びの全体像を示したストーリーです。
では、あなたの部下の教育にはストーリーがデザインされているでしょうか?
例えば未経験の営業職で入社した社員を考えてみましょう。
その会社では、普段上司から個別指導があり、たまに思いついたように会社としての研修もあります。
しかし、そのストーリーが説明されていないので、本人は今学んでいることがどのように仕事に活きるか、いつその知識を使うのか等が見えず、今一つしっくりきていません。
このような状況を改善するため、教育のストーリーを次のように設計してみてはいかがでしょうか?
この表を示すことで、1年間を通じていつまでに何を学び、どのような実践を行い、どのレベルまで到達を目指すかがわかります。
今日教わっている内容が、点ではなく、全体マップのどこに位置するかが分かるので、本人も自分の業務習得が何合目まできているかを振り返ることも可能です。
各上司に部下教育を全てお任せしてしまうと、同じ内容を教えるにしても人によって時期がバラバラになったり、教える内容もそれぞれ異なりがちです。
ストーリー設計により、そういった偏りを防止し、教育の一貫性を確保することも可能となります。
教育効果を測る
卵 × 小麦粉 × 砂糖の例を出しましたが、行った教育に対して、どのようなアウトプットが生まれたかを何らかの方法で測定し、本人に認識してもらう必要があります。
方法は色々ありますが、いくつか事例を示します。
アウトプットの測定方法の例
知識の場合、習得度テストを実施する
現場スキルの場合、習得したスキルが実践できているか、1つ1つ順番に上司が現場で確認する
営業の場合、商談スキルチェックシートを用意し、上司が本人の商談に同席した後に記入してフィードバックする
商談スキルチェックシートを用意し、毎回自己振り返りを記入する
先の表で示した到達目標(業務習得)(1ヶ月の到達度/3ヶ月の到達度/半年の到達度・・・)に対して、どの程度スキルがついているかを上司が評価してフィードバックする
先の表で示した到達目標(受注金額)に対して未達成の場合、その原因を振り返り、足りない点を復習する
教育は教えるだけでなく、考えさせる
部下教育というと上司が教えることをイメージしますが、教育手法はそれだけではありません。
人の成長は、本人自ら問題に気づき、自ら学び、自ら実践した時に最大の効果が出ます。
他人から受動的に教わっている状態のままでは、大きな成長は見込めません。
そのため、部下に「自ら気づき、学ぶ姿勢」を促すことは、教えること以上に大事な上司の役目とも言えます。
これは同時に上司にとっても大きなメリットがあります。
上司が全て自分の力で教えるのは大変すぎます。
本人が自ら学ぶようになってくれれば、上司は教える手間が減り、かつ加速度的に成長してくれるので、そんなにありがたいことはありません。
では、本人にいかに気づきを与え、主体的な学びを引き出すことができるか?
とても奥深い上司の仕事ですが、手法はシンプルです。
【見せる】
・具体的な見本を見せる
【問いかける】
・見本を見せた上で、「あなたのやり方と何が違うと思う?」「なぜこのようなやり方をしたと思う?」と問いかける
・失敗した時に「なぜ失敗したと思う?」と問いかける
【考えさせる】
・答えを教えるのではなく「あなたならどう思う?」と考えさせる(せめてヒントを与えて考えさせる)
【学ぶ機会をつくる】
・上手にできている先輩や同僚から学ばせる(勉強会なども効果的)
・お客様や取引先から本人にフィードバックしてもらう
・役立つ本を紹介する
【経験させる】
・少しストレッチした仕事をやらせる(それを通じて自分の課題に気づいてもらう)
・あえて(小さな)失敗をするような仕事をやらせる
上司は「何でも自分が教えなきゃ」と背負い込む必要はありません。
問いかけや考える機会、学ぶ機会、背伸びした経験などを通じて、自ら学んで成長する人材の育成を意識するのが、最も効果的な教育となるのです。
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