『働き方改革』
この言葉は、この1年くらいメディアで見ない日はないくらい使われています。
使い尽くされて、ややネガティブイメージのワードになってしまった感もあります。
経営者の中には「働き方改革」をはなから敬遠する方も多くいらっしゃいます。
しかし、私は考えれば考えるほど「働き方改革」は中小企業が取り組むべきテーマだと感じています。
単に残業削減や女性活躍といった部分的な観点からではありません。
労働力人口減少時代において、独自の人材戦略なくして、その企業は10年後に果たして生き残っていけるのか?という観点からです。
今回は、「働き方改革」の問題点と導入にあたってのポイントについてお伝えします。
目次
働き方改革が叫ばれる背景には、労働力減少問題がある
画像引用:労働市場の未来推計2030
2019年の年間有効求人倍率は1.6倍でした。この数字は高度成長期の有効求人倍率と同水準です。
高度成長期は10%前後の経済成長が10年以上続いて、有効求人倍率も上昇しました。
しかし、2019年の経済成長率は1%程度しかありません。
これが何を物語っているかというと、まさにあなたが実感している人手不足です。
今は経済成長によって人が不足しているのではありません。
経済は横ばいですが、少子高齢化、人口減少により働き手が不足しています。
ちなみに2030年の労働力不足は644万人と予想されています。(パーソル研究所 2018年調べ)
このような時代背景において、あなたの会社ではどのような人材戦略を考えていますか?
働き方改革ブームは、それを真剣に問い直す1つのきっかけにすぎません。
働き方改革の問題点1 中身が定番メニュー化していませんか?
「働き方改革」
イコール
「長時間労働削減」・「女性活躍」・「有給取得促進」・「育児介護支援」
みたいなイメージが強くなり過ぎました。
働き方改革の定番メニュー化と言っていいでしょう。
「働き方改革」はもともと政府の掛け声で始まり、最初は本質的な議論もされていました。
しかし、電通で起きた過労死問題をきっかけに、働き方改革の論点が残業規制にばかり向かってしまったのは非常に残念です。
とはいえ民間企業は政府の意向にかかわらず、自ら選択する権利を持っています。
- 残業削減から手をつける
- 管理職の意識改革から着手する
- 社内コミュニケーションや信頼関係の構築を優先する
- 育児休暇制度を充実させる
- 副業解禁からスタートする
あなたの会社の働き方改革はどこから手をつけますか?
何をやりますか、やりませんか?
「国が働き方改革と言うから何かやらなければいけない」
「他社がやっているから当社もやらねば・・・」
という受け身の発想は必要ありません。
正にあなたの会社が持続的に発展していくために「働き方改革」にどう向き合うか?が問われています。
働き方改革の問題点2 働き方の問題の一部にフォーカスしすぎていませんか?
少し話を変えて、有名なマズローの欲求5段階説について触れます。
下の段階の欲求が満たされなければ、上の段階に上がっていけないというのがマズローの理論です。
これを仕事に当てはめてみたのが下記の図です。
今「働き方改革」で議論されている問題点は第何段階と言えるでしょうか?
実は議論されている問題点の大半は第2段階の話なのです。
では質問です。
第2段階を是正すれば社員は急に頑張って働くようになるでしょうか?
それは恐らく期待できません。
仮に残業が減り、有給が取りやすくなり、オフィスが綺麗になったとしても、それだけで社員の働きぶりが大きく変わる中小企業は稀でしょう。
人がより高い次元の欲求に目覚め、意欲的に働くためには、
第3段階:帰属の欲求
↓
第4段階:承認の欲求
↓
第5段階:自己実現の欲求
このように上がっていってもらう必要があります。
具体的には、
- 組織に相互の信頼感があり、安心できる
- 社員が会社に愛着を感じる
- 頑張って周囲から認められる
- 公平に評価される
- より難易度の高い仕事のチャレンジしていこうという気持ちをかきたてられる
といった段階を社員が上がっていけるようにしなければなりません。
もしあなたの会社の働き方改革の議論が、第2段階だけを是正しようという議論になってしまっているとしたら、
その議論は低位のレベルにとどまっていることがわかります。
働き方改革の本質は、全ての社員がいきいきと自律的に働き、働くスタイルに応じて持てる力を存分に発揮することだからです。
働き方改革の問題点3 「働き方」の話ばかりで「人」を置き去りにしていませんか?
とっても当たり前のことを書きます。
企業が発展していくためには、いい人材が必要です。
その人材に辞めずに長く活躍してもらう必要があります。
その人材がくすぶっていては意味がありません。
持てる力を存分に発揮してもらう必要があります。
ところが、この当たり前を阻害する問題点が会社の中にはゴロゴロ転がっています。
ビジョンのなさ、戦略戦術の欠如、曖昧な役割と責任、意思決定しない、無駄な会議、無駄な業務、長時間労働、男女や年齢に向けられる偏見・不公平、家庭事情や健康への配慮のなさ、曖昧な評価制度、頑張っても報われない報酬制度、風通しの悪さ、ポストの硬直化、前例踏襲主義、創意工夫を認めない、若手の意見を押さえつける上司
などなど。
沢山たくさんありすぎますね 笑
気分を害したら申し訳ありません _(._.)_
しかし、いずれの問題点も多くの会社が頭を悩ませているものばかりです。
働き方改革の定番メニューである「長時間労働の是正」が、数ある問題点の中の1つでしかないことも、良くお分かり頂けると思います。
上記のような問題点があればあるほど、その会社は人が辞めやすくなります。
採用も上手く進みません。
社員が惰性で働きます。
能力を発揮し切れていません。
今中小企業がやるべきことは、大切にすべき自社の社員が感じている重大な問題点を、1つ1つちゃんと取り除いていくことです。
問題点をクリアするのと並行して、自社の魅力、社員がそこで働く魅力をより鮮明に打ち出していくのです。
働き方改革の決め手はスピードと変化対応力
働き方改革に着手するのは早ければ早いほどいいです。
時間のかかる改革なので、スタートが遅いと他社からどんどん引き離されてしまいます。
次のような社会変化もどんどん起きており、自社に合った対応策が求められます。
- 2019年の出生数は団塊世代のピーク(1949年)の3分の1まで減り、初めて90万人を割りました。
- 若くて優秀な人材は採りたくてもなかなか採れません。
- アベノミクス以降就業者数が増えたと言われていますが、増加分の大半は中高年の女性です。
- 2030年には日本人女性の55%が50歳以上になります。
- クロネコヤマトの宅急便は配達指定時間が不便になりました。24時間営業を見直す飲食店も続出しています。休館日を増やす旅館も出てきました。
- 「お客様は神様」を追求してきた日本の歴史において、あえてサービスの質を下げるという意思決定を下したのは象徴的な出来事です。
他にも人をめぐる様々な問題が襲ってきます。
- 東京圏では優秀で意欲的な人材ほど、副業・兼業や独立に積極的になっています。
- この傾向は徐々に全国に波及していくでしょう。固定的な正社員だけで会社を運営するより、社内外の様々な知恵を活用できる会社が強くなっていくでしょう。
- すでにAI技術者などは新卒でも年収数千万円がグローバル相場となっており、日本企業はついていけていません。
- 他の職種も給与格差が広がる可能性が高いです。
- 外国人技能実習生への依存度が高まっていますが、外国人にとって日本は魅力的な労働環境とは言えなくなっています。(理由は、高くない報酬、劣悪な労働環境、キャリアアップの道がない、英語が通じない、等)
- 外国人活用にも本気で向き合う必要が出てきました。
いずれにも共通するのは、もはや普通の正社員だけでは必要な人材を満たせなくなるということ。
では足りない機能、経験、知恵をどうやって確保しますか?
中小企業の働き方改革は自社の信じる道を進もう
働き方改革をめぐる誤解や問題点について述べてきました。
特にお伝えしたかったことは、
- 働き方改革は残業削減、女性活躍、有給取得向上といった定番メニューを改善するための活動と誤解されている
- 働き方改革の本質は、いい人材が集まり、存分に力を発揮し、長く続ける環境を作ることにより、企業が持続的に発展すること
- 働き方改革は、世界最速の少子高齢化やAI、ロボットの普及が進む時代の人材戦略に他ならない
- 働き方改革は会社が社員に与えるプレゼントではなく、全社員が主体的に取り組む改革
- 1人1人が仕事の生産性を高め、自律的なワークスタイルを確立する活動
- 働き方改革は一朝一夕に完成するものではない
- 時代の変化に適応しながら、先んじて働き方改革を進める企業が勝ち残る
「働き方改革」という言葉の世間のイメージに引っ張られることなく、あなたの会社が信じる働き方改革を進めていってください。
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